車両運動を勉強する時に注意するべきこと
この記事は学生フォーミュラの現役学生、OB、審査委員などの関係者によって12/1から25日まで一日一記事づつリレーしていくアドベントカレンダーです
前回の記事はきくいさんの2018年度PLの記憶でした
1年ぶりにこんにちは、こんばんは、はじめまして、お久しぶりです
とあるメーカーで部品の設計を仕事にしている窓際社員のひらやです
気付いたら5年目の社会人です
3年目とか4年目ぐらいの感覚なんだけれど、何故だろう?
あれ・・・? 3年目から年収変わってなくね・・・・・?
さぁそんなことはさておいて、今年は車両運動の勉強をする時に注意してほしい
ことをつらつらと書いていきたいと思います個人的にも、車両運動を勉強してきた
中で躓いてしまったところでこれから車両運動を勉強する人、勉強している人に
とってほんの少し助けになるといいなと思います
目次
- 車両運動を学ぶ時の教科書
- 落とし穴。
- 知識は現実を理解するための道具
- まとめ
- 余談
- 終わりに
1.車両運動を学ぶときの教科書
なにを今更と思うかも知れませんが、定番の教科書はこの1冊。車両運動の基礎を学ぶ入り口には最適な本でありある程度勉強をしてきた後に読むと、こんな大事なことが書いてあったのねと気づかされる本です。改訂版が出てるんですね。どこが変わってるんでしょう?
次に紹介する本は、個人的に良書であり悪書だなと言う感想です。理由は後述
2.落とし穴。
教科書は手に入れましたか? じゃあ早速勉強していきましょう。
勉強するステップは簡単です
1で紹介した本を、紹介順に読破しましょう!これで車両運動を理解できます!
これで車両運動を考えて設計ができるし、外から見てうんちくを言える人に
なれます!やったね!
と言うのが、個人的に車両運動を勉強する上での最大の落とし穴だと思います
ハマった人が言うんだから、きっとそうなんです(ゴリ押し)
1で紹介した本を簡単に分類するならこんな感じ
運動と制御 → 概念的な車両運動を数式で書いてあって
パラメータによる効果を数字で表しやすい
で、ここで問題になるのが運動と制御の方で
ただでさえわかりづらい車両運動を数式に変えてくれてるから、そこに頼りがちになってしまうせいでその数式が表してる運動状態は非常に限定的なのにも関わらず盲目的に信用してしまうこと
つまり、数式で再現される動きよりも、現実世界での実際の動きの方が大事
と言う根本的なことを見落としてしまうのです。現実の車はロール・ピッチをして減衰力も立ち上がるし、力がかかったら応答するまで時間もかかるけれど、その影響は物理式に反映されている?
例えば、スタビリティファクターがいくつのO/Sだから良くないねっていう評価は一体どこの動きのことを表現しているのかと。別にスタビリティファクターがO/S側にあっても運転してる人はある条件でU/Sに感じるようにすることだって出来なくはないのです
これはアカデミックな指標が役に立たないという意味ではなく、
あくまで車の特定の状態における動きの傾向を表す一つの指標ということです
(なので個人的にアカデミックなところをベースにした車両運動を表す論文等はあまり興味がないです)
(なのでパソコンの中で設計しただけで終わるのは、その落とし穴にさらにハマりに行くようなものでMBDとか、本当に怖い手法ですよね)
3.知識は現実を理解するための道具
じゃあ教科書で学んだ知識はどうするんだという話になる訳ですが
それは現実で起きている現象を理解するために使うんです
運転手がある操作をした時に、車が想定と違う動きをしたとして、それを想定通りの動きに修正するにせよ、どうしてそんな動きしたのか原因を突き止めるにせよその動きに影響を与えるパラメータが何か知識がなければ理解できない問題にぶつかってしまいます
そんな訓練をすることで、現実を観察する目が養われていき、細かい動きの違いを見つけて分析もできるようになれるはずです
ちなみに訓練するならyoutubeにあるダブルレーンチェンジの動画を見るのがおすすめです市販車両なので、制御が介入するので動きが少し不自然なことがありますが、動きが非常にわかりやすいです
もし現実の動きを見て、自分の目で見てわからなければ写真や計測ツールを使って、現実を見やすい形に変えても良いのです
計測の話は専門の人がしてくれている。細かいところを知りたい人は以下リンクからどうぞ。
やっぱりわからない計測のはなし.docx - Google ドライブ
現実で起きていることを細かく理解して、それを自ら物理式に置き換えられるのが本当は一番良いですね
4.まとめ
と言うことで、ここまでの話をまとめると以下の3点
・車両運動とシャシーメカニズムは、車両運動の考え方を上手く概念でまとめたものなのでこの本はほとんど頭に入れちゃいましょう
・自動車の運動と制御やアカデミックな車両運動の物理式は、あくまで現実と傾向が一致する式であって、現実そのもではありません
・一番大事なのは現実に起きている現象です。その現象を理解するために知識を得ましょう
5.余談
結局のところ、車両運動の正解ってなんなんですかって思う人もいると思うんですけど
そんなものある訳ないじゃないですか
競争するなら、その条件で一番速く走った動きが正解だし
(と言うか、競争は自分で考えた動きを正解にしていくこととも言える)
そうでないなら、個性でありブランドとして作り上げるものだと思います
まずはこんな動きにしたいと言う方針=正解を作って、その正解に向けてタイヤの置く場所を決めてタイヤの接地圧変化と応答時間をコントロールするサスペンションジオメトリや車体を決めて・・・と
車を作っていくのが良いと思います。(車ですよ。あなた自身は部品を設計していても、作っているのは車です)
だから特定のコースを走ったときのタイムは、その作った動きで走った時の結果であって目標にはならないし
この部品の設計をこう変えたからタイムが縮みますは、理屈が飛躍していたりします
簡易的にできるラップタイムシュミレータも、簡単な物理式で作れるから手を出したくなる気持ちはとてもわかるのですが
ある質量を持った質点の動きを計算しているだけで、車の自転という大事な要素が抜けてしまっていて
どうやって部品の設計に落とし込んで使うんでしょう?タイムという指標だけに騙されないようにしてくださいね
6,終わりに
まだ書くんかいと思うかもしれないですが、あと少しだけです。ちょっとだけ
学生フォーミュラはいい動きも悪い動きも、いろんな動きをしている車が居るので、車両運動を観察する目を養うにはうってつけな
教育材料だと最近感じています。また、車両運動を元に部品設計を行い、実車の走行でその動きを修正行くので
どの部品を変えたら車の動きがどう変わるかを学べる機会がある貴重な活動です
そこで学んだことはメーカーの設計に入ってしまうと、仕事の仕組みの都合で全く役に立たないのですが
(この経験が活かせないのは会社と仕事の仕組みの方が悪いし、それで学生フォーミュラ卒業生の評価が伸び悩むのはおかしな話だと思う)
それでも部品を設計しているか、車を設計しているか、その認識の差は後々明確な差になってきます
学生フォーミュラを通して得られる経験がどんなものか意識して活動に取り組んでほしいと思いますし
得られた経験が活かしづらい環境にいても、経験が活かせるように足掻いてみて頑張って欲しいな思います
それでは、またの機会があれば、またお会いしましょう
明日はマネジメント職について思ったことというお題の予定です
そういえば今日の某社報告会のグループ司会はリーダーシップのところに割り当てられていたけれど、報酬もない個人の趣味でしかも大学生の集団のマネジメントとか難易度EXじゃんね。学生フォーミュラチームのリーダー経験とか、これ以上ない地獄の経験じゃん・・・?